『くらし便り』読んで暮らしが開かれる

Column Vol.08「経年美化」という価値~時間の経過はモノをどう変えるのか?~

世間一般的に、長く使っているモノや、長期間保存していた物の状態が悪化してしまうことを「経年劣化」と表現することがあります。例えば色が褪せたり、傷が付いたり、風化により変形したりしてしまうものはこの世の中に沢山あります。果たして、それらは全て「劣化」、最初の状態よりも劣っているということになるのでしょうか。
時間が経つことによって、逆に作られた当時より美しさを増すモノは確かにあります。年月を経た分、味わいが深まり、色味も落ち着き、良い風合いが出てくる、、、そうした変化は「劣化」ではなく、「経年美化」と呼ばれるにふさわしい現象なのではないでしょうか。

時間の経過による変化を楽しむ文化は私たちの身近にも沢山存在しています

【ヴィンテージとアンティーク】

本物の素材を用いて丁寧に製造された結果、100年にも及ぶ長い年月を経て受け継がれ
その価値と魅力をますます高めているアンティーク家具や雑貨。
食器や貴金属でもアンティークは目にしますが、家具の場合は、世代を超えて実用品として使い続けていけるのが特徴です。

本当にいい素材が使用されているからこそ、使い込むほどに重厚感と存在感が増していきます。
アンティーク家具はファンも多く、希少性があるほど高価になっていく傾向にあります。

ちなみに、ヴィンテージとはもともとワインの原料となるぶどうの収穫年を示すための用語でしたが、”時間をかけて良さが増した品物“という意味合いからファッション用語としても用いられるようになりました。ヴィンテージ品は、持ち主によって丁寧に使われながら長い年月を経て生まれる、新品には見られない独特の味わい深い風合いが魅力です。家具やワインによく聞く表現ですが、穿き込んでいくことで自然と生まれる色落ちが魅力の一つでもあるジーンズもヴィンテージが評価される代表格で、新品の状態でも経年の風合いを出すための処理が施されるのはよく聞く話です。また、変化の仕方はモノにより異なるので一つとして同じ状態のものは存在しません。世界中を探しても同じものが無い「一点物」としての価値が高まるのがヴィンテージ品の良さなのです。

【骨董品】

骨董品とは、主に希少価値のある工芸品・民芸品の事を言います。
一般的には、希少や古いなどの意味で捉えられています。
骨董品は年代や希少性、保存状態によって価値が決められます。
伊万里焼などは江戸初期からの歴史があるので多くの骨董品が出回っています。

骨董品は、希少性がある=数が少ないという物差しで価値が高まります。希少性は独自性ともいえるでしょう。作家物であれば、作家の個性がより出ている品物、何か特定の目的や特定の人物のために作られた物ほど価値が高まります。多くの時代を潜り抜けてきた骨董品にはロマンが宿り、その目には見えないドラマにファンは魅せられているようです。

住まいに見る「経年美化」

古来より、日本にはさまざまな建物が建てられてきました。お寺や神社、民家、お城に屋敷、そして庶民の長屋までさまざまです。それらは、いずれも日本の気候風土に合った伝統的建材や自然素材を使い、受け継がれた伝統の技を用いて作られてきました。そんな日本の建築物には経年による「美化」があります。年月を経た分、味わいが深まり、色味も落ち着き、良い風合いが出てくるのです。これは、古民家や古くから続く神社、仏閣等の建物を見れば一目瞭然です。そしてその建築物のほとんどは本物の木をはじめとする自然素材が使われているのです。

  • 01

    飴色に輝く床は時間帯や陽の光によって
    いろんな表情で楽しませてくれるのが特色。

  • 02

    塗り壁も時間の経過で色味や表情が
    絶妙に変化。決して汚れには見えないのが魅力。

  • 03

    塗料のはがれや擦れも
    味わいある表情の一つ。

  • 04

    築十年の時を超えて生まれた床の光沢は
    人工的には生み出せない美しさ。

  • 05

    新築時は濃い色だった窓の木枠はたとえ色落ちしてもアート。

経年美化が一番わかりやすいのは無垢材の床ではないでしょうか。多くの人によって踏みしめられ、摩擦を繰り返すことで、磨き上げられたのと同じ効果が生まれます。歴史的建造物の木の床は常に光沢があり、飴色の輝きで美しさを保っています。
一般住宅にも同じことが言えます。無垢材フローリングや塗り壁、自然塗料などは時間が経つほどに味わいが増し、住む人のライフスタイルの中で年月を過ごすことで、その家・その家族にしかない表情が生まれていきます。そういった変化に多くの家族が愛着を感じ、世代を超えて受け継がれ財産となっていくのです。
また、木材は伐採後も呼吸を繰り返し、収縮を重ねることで木の中に含まれる水分が結晶化。どんどん強度が増していくと言われています。数百年の歴史を経て変わらぬ容姿を見せる建築物があるのはそのためで、多くの自然災害もしなやかな強さで耐え抜き、傷や汚れは傷みではなく歴史の爪痕として表情の一部となっていきます。

自然素材だからこそ味わえる「経年美化」という価値。家も手をかけ適切に維持管理していくことで、美しく、そして愛着を持って長く住み続けられる住まいを築くことができるのです。

今回お話しをうかがったのは

ジェイウッド津志田店 高橋店長